一般的な住宅の内壁は、石膏ボードに壁紙を貼ったものです。 石膏ボードは、石膏を紙で挟んだ板です。 JIS A 6901(せっこうボード製品)では 9.5/12.5/15/16/18/21/25mm の 厚さが規定されていますが、住宅で流通しているのはほぼ 9.5mm と 12.5mm で、 壁の下地は 12.5mm、天井は 9.5mm が一般的です。
柔らかく、そしてあいた穴は自然にはふさがりません。
対処は穴の大きさで三つに分かれます。
直径3mm以下 — 埋めれば済む
画びょう、細いピン、細いネジの跡がこれに当たります。 チューブ入りの補修用パテを穴に押し込み、はみ出した分をヘラでならす。 乾いたら、盛り上がった部分を指の腹か目の細かい紙やすりで軽く落とします。
ここで急がないほうがうまくいきます。 パテは乾くと少し痩せるので、一度で埋めきろうとせず、二回に分ける。 一回目は穴を満たすだけ、乾いてから二回目で面を合わせる。 一度に厚く盛ると、中が乾かないまま表面だけ固まり、あとでへこみます。
白い壁紙なら、これでほぼ分からなくなります。 色や柄が入った壁紙では、埋めた跡が白く残ります。 その場合は無理に色を合わせようとせず、そのままにしておくほうが目立ちません。
直径1〜5cm — 下地を作ってから埋める
ドアノブがぶつかった、家具の角が当たった、といった穴です。 この大きさになると、パテだけでは支えるものがなく、押し込んだ分が壁の中に落ちます。
補修キットに入っているリペアプレート(メッシュ状の板)を穴の上に貼り、 その上からパテを薄く重ねていきます。 一度に厚く塗らず、乾かしては薄く重ねるのを二〜三回。 最後に周囲となじむまで平らにします。
平らにするのが、この作業のいちばん難しいところです。 光を斜めから当てると、へこみや盛り上がりが影で見えます。 正面から見て平らでも、横から見ると分かる。仕上げはその状態で確認します。
パテの上は白いままなので、壁紙を貼るか塗装するかしないと目立ちます。 既存の壁紙と同じものが手に入らないことのほうが多いので、 見た目まで元に戻すのは、実はここからが本番です。
手のひらより大きい — 自分でやる話ではなくなる
大きく開いた穴、周囲まで割れている穴、押すとたわむ壁。 この段階では、ボードそのものを切り取って張り替える作業になります。 下地の間柱を探し、ボードを切り、新しい板を留め、継ぎ目を処理する。 道具も手間も別の話になり、仕上がりの差もはっきり出ます。
壁の中に断熱材が入っている、配線が通っている、湿っている。 こうした条件が重なる場所では、開けた状態で判断が要ります。 無理に自分で進めるより、専門業者へ相談したほうが結果的に安く済むことがあります。
賃貸では、直す前に確認する
ここが実務としていちばん大事なところです。
賃貸住宅で壁に穴をあけてしまった場合、 自分で補修することが必ずしも有利に働きません。
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」は、 壁のクロスにあいた穴について、穴の種類によって負担を分けています。
| 穴の種類 | 負担 |
|---|---|
| 画びょう・ピン等の穴(下地ボードの張替えが不要な程度のもの) | 通常損耗として、貸主の負担 |
| くぎ穴・ネジ穴(重量物をかけるためのもので、下地ボードの張替えが必要な程度のもの) | 借主の負担 |
分かれ目は、下地の石膏ボードまで傷んでいるかどうかです。 画びょうやピンは壁紙を貫くだけで下地への影響が小さいのに対し、 ネジやビス、アンカーは石膏ボードそのものを崩します。
つまり、画びょうの跡を自分で一生懸命埋めても、 もともと借主の負担ではない可能性があるということです。
ここで注意したいのは、ガイドラインが定めているのは負担の区分であって、 借主が自分で行った補修の出来ばえをどう扱うかまでは書かれていない、ということです。 補修の跡が残ったときにどう精算されるかは、契約の内容と貸主の判断によります。
手を動かす前に、契約内容と管理会社の判断を確認したほうが早い。 これがこの記事でいちばん実用的な部分かもしれません。
補修しないという選択
穴が小さく、目立たない場所にあり、しばらく住み続ける予定なら、 そのままにしておくのも判断のひとつです。
補修材は開封すると固まるため、一度使うと残りが使えなくなることが多い。 穴ひとつのために買って、大半を捨てることになります。 数か所まとめて直すタイミングまで待つほうが、材料としては無駄がありません。
賃貸で「自分で直すか、そのまま報告するか」を迷う場面は、 網戸の張り替えでも同じように出てきます。 判断の考え方は共通です。
三つの区分
どこまで自分でやるか
- 画びょう・ピン跡のパテ埋め
- 壁紙の浮きやめくれを接着剤で戻す
- 表面の汚れ落とし
- 直径1〜5cmの穴の補修(賃貸では事前確認が必要)
- 壁紙の部分的な張り替え(同じ品番が入手できる場合)
- 下地を探してのビス打ち直し
- 石膏ボードそのものの切り取りと張り替え
- 壁の中の配線・配管に近い位置の補修
- 壁がたわむ、湿っている、柔らかいといった状態
- 構造材(柱・筋かい)に傷が及んでいる場合
